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荻野僚介 ”cannot see clearly”

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この度、gallery COEXIST-TOKYOでは、荻野僚介(おぎの・りょうすけ)の個展を開催する運びとなりました。

荻野はBゼミスクーリングシステムで美術を学び、これまでに平面作品を中心に発表してきました。キャンバスにアクリル絵の具を用いた画面は、フラットに仕上げられ、筆触が消されています。表面の、制御され、取り澄ました表情と濁りのない明晰な色合い、そして簡略化されたモチーフの形態が緊密に構成された画面は、まるでサイン(標識)のように目を引きます。

通常サインというものは、道路標識やトイレの男女のマーク、優先席など、人の注意を促すため、人の目を引く色合いを使用し、象徴的な図柄を用いることによって一目で見てそれが何を意味しているのか、誰にでもわかるように作られています。

しかし、荻野の作品は、平坦に仕上げられた色面の強さと、描かれたモチーフの、奥行きを失い、記号のようになった無機質な形態が、まるで何かを伝えようとしているかのように見えるにもかかわらず、それが何を意味しているのか読み取ることは不可能であることに気づかされます。

このことは、荻野が自身の作品を表現した言葉「声量のない大声」——大声をだしているということは視覚的に受け取れるのだが、声量がないので何をいっているのかさっぱりわからない——のイメージと重なります。そして内容が不明である分、「大声」は視覚的に純粋な形で伝わってくるのです。

意味内容から解き放たれ、コンセプトの痕跡を消し、ミニマルであることに手を振りつつ、具象絵画と抽象絵画の間をすり抜けた荻野の作品は、絵画が絵画としてのみ存在する純粋性の上に成立しているかのように見えます。それは、私たちの知覚を刺激しながらも決して踏み入らせることのない、自律した絵画であると言えるのではないでしょうか。

近年の主な活動は、2013年「引込線2013」旧所沢市立第2給食センター(埼玉)、「掲示」KABEGIWA(東京)、「ダイチュウショー 最近の抽象」府中市美術館市民ギャラリー(東京)、2014年「灰色」佐賀町アーカイブ(東京)、ドラックアウトスタジオ(東京)など。
本展では平面作品の新作8点を展示販売いたします。ぜひご高覧いただけますようご案内申し上げます。

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展覧会名「cannot see clearly」は歌詞の一部からとった。「ライラック・ワイン」ジェイムズ・シェルトン作詞作曲。展覧会名を考えていた時、この曲が流れてきた。

慰めとしての甘美な酩酊状態を書き連ねたような歌詞であるが、今回借用させてもらったフレーズは、ふらふらになるまでにライラック・ワインを飲んでしまってよく見えないという、端的にそういうくだりのものである。

ところで、覚醒していても、対象物が明瞭に見えていても、目の前のそれを受け入れているとは思えない状態がある。自分は本当にそれを見ているのか。何を見ているのか。もちろんseeは「わかる」「理解する」という意味でもある。

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展覧会名を決めたのち、ずいぶん昔に書き写していた文章を思い出しました。

「すでに輪郭のぼやけはじめていた城は、いつものように静かに横たわっていた。Kは、城に生命が動いているというかすかな気配すらこれまで一度も見たことがなかった。たぶん、こんな遠方からなにかを見わけることは、まったく無理なことなのかもしれない。しかし、彼の眼は見ることを欲し、城のこの静けさが気にくわないのだった。Kは、城をながめていると、静かに腰をかけて、ぼんやり前方を見やっている人間の様子をうかがっているような気がすることがときおりあった。相手は、もの思いにふけっていて、そのためにすべてのことに無関心になっているというのではなく、自分はひとりきりで、だれも自分を観察などしていないといわんばかりに平然と安心しきったように腰をかけている。しかし、そのうち、いやでも観察されていることに気づくにちがいない。それでも、彼の平静さは、すこしもくずれないのだ。すると、これがそのことの原因なのか、それとも結果なのかはわからないが、観察者の眼は、焦点を定められなくなって、すべり落ちてしまう。こうした印象は、きょうも意外に早い夕ぐれのせいで強められた。ながく見つめておればおるほど、すべては、ますます深く、黄昏のなかに沈んでいった。」
フランツ・カフカ『城』前田敬作訳、新潮文庫、1971年

荻野僚介

●オープニングレセプション 9月13日(土)17時〜19時
●トークイベント 9月27日(土)19時〜21時 *18時30分〜受付け開始
ゲスト:上崎千氏(芸術学・アーカイヴ理論)、冨井大裕氏(作家)、藪前知子氏(キュレーター)
参加費 500円(ワンドリンク付き) 詳細はこちら

作家ウェブサイトでは、他の作品もご覧いただけます。http://www.oginoryosuke.com/

 

【画像1】

 

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【画像1】撮影:加藤健
w1665×h1861×d61 2011年 アクリル絵具、キャンバス 186.1×166.5cm

【画像2】撮影:坂田峰夫
左から:
w607×h910×d26 2010年 アクリル絵具、キャンバス 91.0×60.7cm
w606×h910×d27 2012年 アクリル絵具、キャンバス 91.0×60.6cm
w802×h802×d26 2013年 アクリル絵具、キャンバス 80.2×80.2cm

【画像3】
w1571×h771×d25 2010年 アクリル絵具、キャンバス 77.1×157.1cm

【画像4】撮影:加藤健
左から:
w802×h802×d26 2013年 アクリル絵具、キャンバス 80.2×80.2cm
w802×h1115×d30 2013年 アクリル絵具、キャンバス 111.5×80.2cm