太湯雅晴個展「暖簾ごしの日常」 東京ビエンナーレ2020/2021参加プロジェクト

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東京オリンピック競技大会の開催と同じく、7月23日から8月8日の期間、EARTH + GALLERYでは、東京ビエンナーレ2020/2021参加プロジェクトとして太湯雅晴 個展「暖簾ごしの日常」を開催いたします。

【太湯雅晴 個展「暖簾ごしの日常」】

会期:2021年7月23日(金)〜 8月8日(日)※月・火曜日休館

時間:12:00〜18:00

会場:EARTH + GALLERY

入場無料

 

【トークイベント】
日時:2021年8月8日(日) 14:00〜 15:30

会場: EARTH + GALLERY

話し手:福住廉・太湯雅晴
モデレーター:楠見清(東京ビエンナーレ Social Dive公募プロジェクトディレクター)

入場無料

 

「暖簾ごしの日常」

話は10年前の、いわゆる311から始まる。 震災当日横浜にいた私は、尋常ではない建物の揺れに驚いて作業中のスタジオを飛 び出した。更に強まる振動に危険を感じて近所の大きな十字路に出ると、車道と、その 奥の建物と目の前の電信柱のそれぞれが漂流物のようにゆらりゆらりと漂っていて、そ の様子を目の当たりにしながら世界の終わりを感じた。夕方、県道218号を西に向かっ て帰路を急ぐ人たちの姿は「日常」のパラダイムシフトを予感させるものだった。

関係者がオリンピック誘致騒ぎに湧いていた2013年頃、開催決定までを含む一連 のニュースには興味がなかった。永く居住しているとは言え、東京は生まれ育った 土地ではないし、オリンピックにも特別な思い入れのない私にとってそれらは全く 他人事だった。同時期、それらの話題を余所に震災とそれに起因する福島第一原 子力発電所事故をモチーフに展覧会に出品するための作品のプランを練っていた。 その際注目したのは、原発の立地する福島県双葉町に掲げられていた「原子力 明る い未来の エネルギー」という標語看板だった。横浜に居ながらにしてこの標語の記事 をニュースサイトで見かけた私には、ニュースの存在自体が福島と関東の微妙な距 離感を捉えているように感じられ、だから被災地への積極的な取材は行わず、ニュー スの情報のみに着想を得てネオン管で製作した標語を電気の力で光らせた。その 光は、電力を供給していた電力会社とその事実に無自覚なまま状況を享受していた私 の共犯関係を表していた。

私がオリンピックに興味を持ち始めたのは、世間がそれに「復興」の枕詞を付して呼 称している事に気が付いた2015、6年頃だった。復興五輪のニュースは世間を浮かれ た空気感で包み込み、震災のニュースを急速に押し退けていくようだった。その頃、不定 期に出講していた勤務先から解体中の国立競技場を見下ろす事ができた。一度更地に なって、その後出向く度に建造物が増殖していった。我々が生活していた風景は砂上の楼 閣に過ぎなかったという陳腐な言い回しを思い付くくらいに、震災以降の「日常」が脆い 足場の上に建てられている事を実感し始めていた。その足場の上に更に別の足場を組み 上げて、オリンピックというレイヤーが「日常」に加わったのだと感じていた。「今日の明るい 未来」という写真シリーズでは、そうした「日常」に「明るい未来」のキャプションを貼付す る事でヴェールの裏に隠れた足場を晒そうと考えていたのだった。

言うまでもなく「明るい未来」の語は先の原発標語から本歌取りしている。この標語 は1987年当時に小学校6年生だった少年が考案し、町のコンクールに入賞した後に 国道6号線から双葉駅に向かう通りの入口にしつらえられ、町に入る人々を長らく出 迎えた。

2020年初頭以降、「日常」は更に一変した。それは今も刻々と変化している。変化し続ける 「日常」の中で、私にできるのは、私の分かる範囲で世界を理解し、社会を覆う硬直した 空気感を打ち壊し、まだ見ぬ「明るい未来」を迎えるきっかけを用意する事だ。それが私以外の誰かにも共有し得るものであれば良いと思う。

 

太湯雅晴

公共の場に於ける創造的行為の在り方をテーマに活動。社会制度に介入し、そのシンタックスを組替えることで、日常の中にバグのように違和感を生じさせる。

主な展示に「さっぽろアートステージ2017」(地下歩行空間、札幌、2017年)、 Think of ENERGYFederal Foreign Office、ベルリン、2014年)、黄金町バザール(黄金町、横浜、2014年)、 2:46 and thereafterPepco’s Edison Place GalleryWashington, DC2012年)、六本木アートナイト(東京ミッドタウン、東京、2012年)、LOCKER GALLERY at TOKYO NATIONAL MUSEUM(東京国立博物館、東京、2007年)。主な受賞にゲンビどこでも企画公募2010 入選(広島市現代美術館、広島、2010年)。

また9月5日まで、東京銀座数寄屋橋公園内、岡本太郎作「若い時計台」前にて「The Monument for The Bright Future TOKYO / 2021」のプロジェクトを実施中。

 

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