自由な石工、夢幻の中に遊ぶ本展覧会は、第6回東京アンデパンダンの人気投票「入札アンデパンダン」で得票数2位となった髙星秀明と、3位となった浅間明日美による二人展である。髙星秀明は、神奈川県に生まれ、2008年に多摩美術大学美術学部彫刻学科に入学、2014年に同大学院美術研究科彫刻専攻を修了した。浅間明日美は、岩手県に生まれ、就職した後にアートを学び直し、2005年にセツモードセミナー、2008年にアーツ・イニシアティブ・トウキョウ(AIT)のアーティストコースを卒業した。2014年にはEWAA Londonのアーティストインレジデンスにも参加している。
二人の作品に共通にみられるのは、石組などを用いた建築物の設計から意識的・無意識的に受けている影響である。髙星は、子供の頃から石垣や城、建物が大好きで、よく絵に描いていた。彫刻学科に入学してから人体をテーマとする制作を試みたが得心がいかなかった。そこである日、建築マケットに想を得て、大好きな石組を粘土で表現したジオラマ的な作品を造ってみた。「ジオラマは、ジオラマでしかない」と思い、作品に盛り込む造形要素をできるだけシンプルにした。すると不思議な佇まいの、観者が意識の中で遊ぶ入口となり得るような、ユーモラスに内面に訴えかけてくる作品ができた。
浅間は、実父が橋梁設計技師であったため、子供の頃から物事を数学的、物理学的に考える癖がついたという。彼女にとって、世界は素粒子に還元でき、作家と観客は作品を介して素粒子論的な相互関係を有するものだ。観客が作品に相対したときに湧いてくる作用である「思念」や「気」を作品として表現したいと考えており、観客に幸福になってもらうため、作品アイデアをまず二次元化し、次に三次元化するに際しては、「良い『気』分」が伝わるようなフィルター(作家曰く「OKフィルター」)をかけるのだという。この二人展では、制作の流れが判るよう、二次元作品と三次元作品を併せて展示する予定だ。
石組建築家は歴史的には「石工」と呼ばれていた。この文の題名の様に「自由(free)な石工(mason)」と言うと、昨年から公開結社となった、元々は中世に特別な技術者として国境の自由通行を許されてきた石工の組合であったフリーメイソン(Freemasonry)を想起させるかもしれない。もっとも、これは石工的な影響を受けつつも、石に囚われない自由な表現方法で、観客を意識の中のユートピアへ招き入れ、夢幻の中に遊ばせるような作品を制作する二人を、「自由な石工」の姿と重ね合わせて題名としたものだ。
さて、この表題の表層には、概ねそれ以上の意味はないのだが、もしその裏に更なる隠しテーマが潜むとすれば、観客各位による読み解きにお任せしよう。蓋し、今や「自由な石工」という存在でさえも、皆の想像の中に、夢幻の中に、そして概念の中にのみ、あるものなのだから。
深瀬鋭一郎(深瀬記念視覚芸術保存基金代表)
髙星 秀明(たかほし・ひであき)
【略歴】
1989 神奈川県生まれ
2012 多摩美術大学美術学部彫刻学科卒業
2014 多摩美術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了
【主な展覧会】
2012 グループ展「カセットとiPodの間vol.2—空間と可能性—」/koganei art spot
2015 関直美+髙星秀明「EXISTENCE 存在/二つの代謝する細胞」/gallery COEXIST-TOKYO
2015 第6回東京アンデパンダン展/EARTH+GALLERY
「白景色・塔」 W:300×D:300×H:250(mm) ミクストメディア 2016
右:「白景色・箱」 W:300×D:300×H:170(mm) ミクストメディア 2016
浅間 明日美(あさま・あすみ)
【略歴】
岩手県出身、東京在住
2005 セツモードセミナー研究科卒業
2008 AIT(アーツ・イニシアティブ・トウキョウ)アーティストコース卒業
2013 あとさき塾(絵本講座)
2014 EWAA Londonアーティストインレジデンス参加
【主な展覧会】
2007 art&river bank depositors meeting
2008 ゲイサイミュージアム#11
2015 テラダ倉庫ART STAND EXIBIHION
2015 第6回東京アンデパンダン展/EARTH+GALLERY
【主な受賞】
2007 イラストノート第2回ノート展入賞
2013 千修イラストレーションコンテスト準優秀賞
2015 コッカプリントテキスタイル賞佳作
2015 イラストレーションチョイス準入選
「ミケランジェロ本歌取りⅠ〜ジュリアーノ〜」 300×300(mm) 刺繍2015
「ミケランジェロ本歌取り Ⅱ〜バッカス〜」300×300(mm) 刺繍2015