萌え出ずる、空想の種
渡辺進と渡辺萌由は、富山大学芸術文化学部を卒業したのち、2014 年に結婚し、それを機に夫婦でアートユニットを結成した。2015 年から研究室兼アトリエ「飴色団栗研究室」(あめいろどんぐりけんきゅうしつ)として、世界の どこかにあるとも知れない森や遺跡を巡っては、素敵で不思議な面白いものを持ち帰り、標本箱を作ったり、試験 管で植物を培養したり、当時の姿に復元したりする活動を続けている。個展・グループ展開催やイベント参加の一環として、昨年11月に開催された「第6 回東京アンデパンダン」にも参加し、その人気投票「入札アンデパンダン」で得票数1位に輝いて、今回の個展の機会を得たものである。
彼らが標本化した主なものを例にとって紹介すると、例えば、「種花」は、葉もなく、根も出さず、種から茎と花のみが伸びる植物が、高さ12cmの試験管に入れられた標本である。様々な形の花を咲かせることから、かつて「花の遺跡」では占いに使われていたという。また「母岩草」は、「星の洞窟」に自生する浮遊性の水草の浮き部分である。中には水晶のような結晶が育っている。「飴団栗」は、その名のとおり、光を受けてとろけた飴のように甘く輝くドングリであり、これに漆で蒔絵を施した加飾飴色団栗「種護」は、植物の種を信仰する古い文明の発掘物を再現したもの。その紋様はかつて「花の遺跡」で種を守るために描かれていたものだ。
研究室では、こうした標本の制作行為を「造形」とは呼ばず、「未知の収集」と名付けている。それは、作家が芸術目的で見いだした筈の「未知のもの」の標本について、「木を削って塗装する」とか、「粘土をこねて色を塗る」とか、「紙を切って貼る」と表現してしまうと、作品が忽ち作りものとしか思えなくなってしまうからだ。こうしたことを、仏師の立場から言えば、「木の中から仏を彫りだす作業を通して、仏の自分に対面している」(高野山法徳寺)のだという。擬えて表現してみると、研究所では、「素材の中から標本を造り出す作業を通じて、自分たちの中の発掘物に対面している」ということになるのではないか。
「木の中の仏と出会うということと、自分の仏性と出会うこととは、同時なんですな。最初のうちは、自己とはつまらんものだと思うてます。自分よりもっともっとすばらしい、いいものを彫りたいと思います。そういうものを目指して、一生懸命やればやる程自分になってしまうのです。(中略)自分になったときに、初めて、“出けてるな” と思うんですな。そうしているうちに、これはわたしの知らないわたしが、もう一つわたしの奥にいて、わたしを見つめているのだな、ということを、フッと分からせて貰ろたんです。」(松久朋琳『仏の聲を彫る』より)
研究室の二人は、「折角の緑萌え出ずる春に開催される展覧会なので、集めていた種や球根が発芽したところを展示したい」のだという。首尾よく発芽した場合、その中には、球根のような部分が竜の形に見える「竜の雛」など、とても珍しいものも含められる予定だという。さてさて。そういうことならば、観客の皆様とともに、楽しみに観覧しようか。春の森、竜の寝息を。
深瀬記念視覚芸術保存基金代表 深瀬鋭一郎
アートユニット「飴色団栗研究室」(Caramel Acorn Laboratory)
渡辺進と渡辺萌由の夫婦二人によるアートユニット。
世界のどこかにきっとある不思議な森「世界の奥の森」周辺と、福島県のアトリエを主な拠点とし活動している。
ユニットとしての活動
2014 結婚を機にアートユニットを結成。活動開始
2015 個展「博士の標本箱」開催(東京都 Photons Art Gallery)
第6回東京アンデパンダン展出品(東京都 EARTH+GALLERY)
「daydream Vol.8」参加(大阪府)
「飴色団栗研究室」結成前の活動歴
渡辺進
富山大学芸術文化学部 卒業 漆芸専攻
漆芸の未来を拓く 生新の時 2013 作品展示
会津・漆の芸術祭2012〜地の起源・未来へ〜 作品展示
工芸都市高岡2012クラフトコンペティション 入選
渡辺萌由
第63回 福岡県美術展覧会 入選
第42回 福岡市美術展 福岡市文化芸術振興財団賞
第6回 大野誠まどかびあ総合美術展 大野誠市長賞
第64回 福岡市美術展 奨励賞
第43回 福岡市美術展 奨励賞
第64回 富山県美術展 県展新人賞