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前田哲明 個展 ”recent work”

UP

「Untitled 2007」2007年 鉄 ヨコハマポートサイドギャラリー/横浜 撮影:山本糾

 

この度、EARTH+GALLERY / gallery COEXIST-TOKYOでは、彫刻家・前田哲明の個展を開催する運びとなりました。鉄板を素材とした前田の抽象彫刻は、重厚さを保ちながらも、まるで紙や木材のような軽やかさと柔らかみがあり、自在な動きを見せる有機的なフォルムが特徴です。本展は、1階EARTH+GALLERYと2階gallery COEXIST-TOKYOにおいて開催。旧作に併せ新作の立体とドローイングを発表します。

 

形が立ち上がるとき  大橋紀生(エディター)


今回、1階では、2001年に制作した透明なアクリル板と鋼材による旧作、2階には鉄による新作を発表するという。

 新作がどんなものか、東武東上線の若葉駅に降り立ち、車で30分ほどの畑に囲まれた広びろとしたスタジオを訪れた。そこにはさまざまな大型の工具やクレーンに混じって、鉄板を30センチほどの幅で短冊状に切断し、溶接材でテクスチャーがつけられた断片が無造作に置かれ、中には筒状に加工した部材もあった。これまで前田は、アルミ、ステンレス、ブロンズなど多くの金属を素材に制作してきたが、ふたたび鉄に回帰したようだ。作業場から別室に移ると、そこには何冊ものスケッチブックがあった。前田は、現場作業がない時はいつも、ここでドローイングをしているという。まわりを見ても、色のついた絵具は全く見当たらず、モノクロームの墨(墨汁)だけである。スケッチブックの横に墨汁をたたえた小ぶりの瓶があり、そこに墨を吸った細い糸が垂れていた。これが描画道具だと……。彼が色彩以前に、形と空間に強く惹かれる「彫刻家」だということに改めて気付かされる。

 実際、糸の片端を指先で摘まんで、見開きに広げられたスケッチブックに投げつけると、そこには偶然にできた曲線が現われ、また糸を引きずると、不定形な面ができる。それらの形状はあくまで2次元の図なのだが、前田の目には3次元の像として映っているようだ。それは登山家が地図を見て、等高線による地形図から山の起伏や道の険しさを読み取るようなものかもしれない。しかし、彼の描くドローイングには20メートル間隔で引かれた等高線のような決まりがあるわけではない。どちらかというと、マルセル・デュシャンの《3つの基準停止装置》を彷彿とさせる。デュシャンのそれは、1メートルの長さの糸3本をそれぞれ1メートルの高さから落とし、偶然にできた曲線を原器として《大ガラス》などに応用したものだが、前田の営為は、宮大工がかつて使っていた「墨壺」から引き出した糸に近いようにも思う。墨壺は、墨のしみこんだ糸をピンと張って指ではじいて木材に直線を引く道具であって、それとも違う。成り行きにまかせていたとしても彼が得ようとしている線には、新たな時空を模索しつつ形を立ち上げようとする、確かな意図が働いているのだ。

 作品は厳然とした一個のものである。したがって空間に置かれれば、屋外、屋内を問わず、その場と特殊な関係が生じる。そこに、作品を見る者の身体的なスケールや位置、動きが加わり、さらには立体である以上、光と陰影のバランスが影響してくる。それらを統合できたとき、作品として成立するのだろう。

 きっと前田は、見る者を圧するほどのスケールをもって、その統合を実現してくれるに違いない。楽しみにしている。