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小林耕二郎 “Concave”

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【画像】“CONCAVE” 2016 gallery COEXIST-TOKYO 鉛、石膏、プラスチックテープ他 photo by Hayato Wakabayashi

動物と動物の間で

それぞれの動物は、主体が知覚(受容)し、作用(実行)するという円環状の一連の流れの中に生きている。この完結した世界をユクスキュル・クリサートは「環世界」と呼んだ。すべての生物が一つの世界の中に置かれているのではなく、それぞれがその種に固有な環世界の中で生きている、というのである。

人間は動物を超えるものではなく、動物と動物との間のメタ動物として捉えて、複数の環世界を行き来できる能力を環世界パラメーターとして捉える。人間は一つの環世界にとどまることが出来ない。もしくは、人間は動物に比べて比較的容易に環世界を移動する。しかし動物も環世界を移動することもありえる。犬は、盲導犬として人間に近い環世界を獲得する。犬は約1万2000年前に本能の壊れと家畜化されることで、一つの環世界から移動したともいえるかもしれない。

近年は穴を掘ること、その行為を作品制作の糸口としている。今回の展示では巣穴=シェルターをつくるために穴を掘り、何かを保存するために穴を掘る。あるいは、ストレスを解消するためかもしれない。穴を掘ることを犬のように、〈とらわれ〉てみる。穴を掘ることから異なる環世界へと行き来してみようとする試み。

(参照)『生物から見た世界』 ユクスキュル・クリサート、岩波文庫

『暇と退屈の倫理学』 國分功一郎、大田出版

この度、gallery COEXIST-TOKYO では、今回で2 回目となる小林耕二郎の個展を開催する。小林は、金沢美術工芸大学美術学部彫刻科を卒業し、多摩美術大学大学院美術研究科を修了。以来、立体・映像・ドローイングなどを用いて総体としての彫刻を制作することを中心に活動を続けている。

壁に浮き出した染みや木目が、人間の顔や動物のシルエットに見えてくる——

子どもの頃に、そういった体験をする人は多いだろう。幼い頃は、自然現象によって偶然にできた形が、今自分が生きている世界とは別次元にある超越的存在からのメッセージのように思われ、恐ろしく感じられたが、大人になるにつれ、ただの偶然の産物に対し、おもしろがりこそすれ恐怖を感じる事はなくなってゆく。

美術は、このような自然界にある偶然の形からイメージを膨らませる事から始まった。つまり、人間のイメージ創造の能力こそ美術の起こりであった。有史以前、薄暗い洞窟の中で、壁面を触りながら自分の身の回りにある物と似た形態を見つける。壁面のでこぼこを動物の筋肉や頭部に見立てることで、動物たちのしなやかで強靭な体躯を生き生きと描いた、あの豊かな洞窟画が生まれたという。

そうであるとするならば、現存する人類最古の「美術」は、レリーフ状の半立体であったと言える。それは同時に、美術において、3次元世界に存在する人類が、いきなり2次元の表現へと向かったのではなく、半立体という中間次元を通して、イメージを最もかき立てる次元である2次元へと踏み込んでいった過程と見てとることもできよう。

彫刻をある量塊を持った形態だと定義するならば、量塊とそれを取り巻く空間の際(きわ)——アウトライン——こそが、ものの存在を決定付けるものとなるだろう。私たちはこの彫刻と同じ次元に在るのだが、純粋に視覚のみを通して世界を知覚したならば、これを実に2次元的に捉えていると考えられないだろうか。

メルロ= ポンティは、このようにいう。

「私は本当に奥行きを見ているのではないし、もし見ているとすれば、それは〔奥行きではなく〕もう一つの横幅なのだ。」

(※)教室で、教壇に向かって席が設けられている。目の前に座っている人の脇から、さらにその前に座っている人の背中が見えている。そのふたりにどれだけの距離があるのか、彼らの身長はどのくらいなのか、また、彼らの後頭部や服のしわが見えるが、それが実際どのくらいの凹凸なのか、私たちは脳内で手前に張り出しているもの、あるいは奥へと引いていくものを把握しているのであって、実際の形態や距離は触れてみないとわからない。その深さや形を、表面にできた光と陰の濃淡よって只々想像するのみである。実際、私たちが見ている世界は、上下左右に広がっていく、濃淡のあるシルエットの連続なのである。

この世は3次元だが、少なくとも、空間を切り取りさえすれば、視覚世界を平面に再現できるだろう。しかし立体で再現するとなるとどうだろう。立体には、奥行き、つまり、自分と対象の距離をどう把握するのか、という問題がつきまとう。触れることでしか成立しない立体を、視覚芸術として表現する困難がここにある。視覚から得られた情報を立体に起こす時、そこには記憶と経験が大きく作用しているに違いない。

空間の中でどのような外形として在るのか。空間と物体との果てないせめぎ合いによって成立する彫刻は、実際の作業としてはアウトラインを作ることに他ならないが、彫刻を彫刻足らしめるもの、つまり、「彫刻」と他の立体物を分けるものは、彫刻の内部にある。彫刻は、外部を作ることでしか内在するものを成立させられないのだ。

本展では、内部をつくる事と外部をつくる事の並列化を試み、「存在」と「空(くう)」の狭間のアウトラインを消し去るこ

とで生じる「彫刻」を提示する。それは、「主体(私、我々)」を認識することによって生まれた所有の概念が起こる以前の、自然現象という絶対的な主体を欠いた永遠の反転運動を具現化する試みでもある。

(※) モーリス・メルロ=ポンティ 「 『目と精神』 をよむ」富松保文訳 武蔵野美術大学出版局 2015 年

(参照) E・H・ゴンブリッチ 『芸術と幻影』 瀬戸慶久訳、岩﨑美術社、1979 年

デヴィット・ルイス=ウィリアムズ 『洞窟のなかの心』 港千尋訳、講談社、2012 年

 

*concave 「凹状の」という語。下方に膨れ上がって窪んだ状態。con- は「とても」という強調の意味をもつ接頭語。

OPENING RECEPTION 1月16日(土)18:00 – 20:00

“CONCAVE” 2016 gallery COEXIST-TOKYO 鉛、石膏、プラスチックテープ他 photo by Hayato Wakabayashi

小林耕二郎 略歴/ Kojiro KOBAYASHI

2003 年

多摩美術大学大学院美術研究科修了

2001 年

金沢美術工芸大学美術学部彫刻学科卒業

個人 及び アーティストユニット「構想計画所」としての主な活動歴/ EXHIBITIONS

2015 年

個展 [ 低地 | HOLLOW ] gallery COEXIST-TOKYO

タマビ映像祭  3331 ARTS CHIYODA アキバタマビ21

「構想計画所」 第18 回 岡本太郎芸術賞展 川崎市岡本太郎美術館

「構想計画所」 無人=Atopia  gallery COEXIST-TOKYO

2014年

「構想計画所」 疑存島 - 他者なき世界の地図作成法 gallery COEXIST-TOKYO

「構想計画所」  雑木林を巡る哲学と美術と出来事 小平市中央公園 雑木林

「構想計画所」  [ 旅をよむ ARTIST BOOK ] 3331 ARTS CHIYODA アキバタマビ21

2013 年

[ 秘密の部屋  ヤドカリトーキョーvol.09 ] / 小石川 旧外国人用簡易宿泊所

「構想計画所」 [ Impact 8 - International Printmaking Conference ] Duncan of Jordanstone

College of Art & Design

「構想計画所」  [ 水源地の芸術 Direct Access Method ] 神奈川県立相模湖交流センター

[ART SESSION TUKUBA]  TX 研究学園前公園

2012 年

「構想計画所」 [ 風・景・観 ]  アートラボはしもと

2011 年

個展[ FROW ] 新宿眼科画廊

[ EN Project ] 家の展示館

2010 年

「構想計画所」更新に憑く- 可塑的な無人島- 3331 ARTS CHIYODA アキバタマビ21

探索者 石井厚生退職記念展- 諸材料卒業生と共に- 多摩美術大学美術館

Toyota Art Competition 豊田市美術館

2009 年

イセ文化基金が支援する若手作家達  MUSEUM at TAMADA PROJECTS

A RT PLANT 2009 in 狭山丘陵

個展 [ CALLING ] Gallery Kingyo

2008 年

ART PROGRAM OME 2008 [ 空気遠近法- U39 ] 旧青梅市農林高校講堂